佐川光晴著、集英社文庫。
ある日、突然、父の逮捕を知らされて、主人公陽介の中2の生活環境はガラッと変わる。母の姉が運営する札幌のグループホームでの生活が始まる。姉、恵子おばさんのパワフルな生き方に影響されながら、あのまま日常を送っていたのでは考えられない精神的な成長を実感する。
人生が翻弄されているのに、確かに生きていく陽介と周辺の人たちから、読者も勇気がもらえて楽しい読書時間をもつことができる。その楽しさはどこから来るのだろう。ピュアな自己信頼とでもいったらいいだろうか。
社会的養護の世界にピュアな自己信頼があるのは難しいことだ。それはそうだろう。いくつもの喪失体験を味わいながら、世界と自分を信じられなくなるのが普通のはずだ。だから、あれ、こんなことでいいのかな、と思いながら、読者は不思議な元気をもらってしまうのだ。